波に咲く花(文字「水」を重ねて) /Blossoms of the Waves/2019/58.0×35.0cm
/墨、顔彩、画仙紙

書作品「波に咲く花(文字「水」を重ねて)」は抑えた筆致によってむしろ豊饒さが際立つ作品。一つ一つの飛沫が紙の内側から湧き上がってくるかのような印象を与え、まるで現実の海岸に立っている雰囲気さえ感じるのだ。飛沫は物質の根源である原子のように飛び散り、碧い輝きを携えた濃墨の漆黒が、絶え間なく寄せては退く波となって現れている。(ART MAISON INTERNATIONAL vO.25より アラン・バザール)

蘇る(心輝く天使の皆様に感謝)
/Resurrection/2020/72.7×60.6cm/アクリル、顔彩/綿キャンバス

書の線を使って描かれた絵画作品「蘇る(心輝く天使の皆様に感謝)」は、アクリルと顔彩を巧みに併用し、天と地の間に存在する天使への感謝の念を表現した作品である。右側に描かれたその白さは純粋さを感じさせ、地球を包み護ろうとする天使の翼のようだ。左側にはバベルの塔を想起させる複雑な建造物が描かれ、下から上へと伸びる天使たちの軌跡を思わせる光を挟んで、天使の翼と対峙している。(ART MAISON INTERNATIONAL vO.25より アラン・バザール)

自然共生 /Symbiosis of Nature
/2021/53.0×45.5cm/墨、顔彩、胡粉、金泥/ユニペーパー

日本には多くの神々が住んでいると言われている。辻 風我は2つの作品で、そんなミステリアスな自然の秘密を見せてくれるのだ。
「自然共生」は神道との密接な関係を想起させる。自然の力は人間が生きていくうえで必要な環境を育ててくれるものであり、それは紙の発顕でもあるのだ。この作品で彼女は墨、顔彩、胡粉、金泥を一つの画面に落とし込み、我々を大いに楽しませてくれる。控えめな色調で整えられた構図は素晴らしい。縦に伸びる黒い要素は、作品の背骨と言えるもので、白い点や渦巻く線によって、その存在が強調されている。また、金泥によって作品の立体感が強調されている。(ART MAISON INTERNATIONAL vO.26より アラン・バザール)

精霊の木 /Tree Inhabited by Spirits/2021/45.5×53.0cm/墨、胡粉、金泥/綿キャンバス

「精霊の木」では木が精霊や宇宙と混然一体となっている。繊細に描かれた線は素晴らしい表現であり、我々が呼吸するのに必要な酸素をつくる木々をも辻が生み出しているかのようだ。(ART MAISON INTERNATIONAL vO.26より アラン・バザール)

Art MAISON INTERNATIOMAL Vol.26 p135~136

鑑賞者に励ましと癒しを届ける、優しく生命力あふれる書。

辻風我が書道と出会ったのは高校生の時。芸術科目の選択の際、半ば消去法のように選んだのがきっかけだ。それまで全く書を学んだ事がなかった辻だったが、担当教員は彼女の作品をみて「書道で食べていける」と褒めてくれた。高校を卒業し就職したものの、担当教員の言葉が忘れられず、仕事を続けながら書道の専門学校に通う事を決意。その学校は入学時に40人程いた学生が、卒業する頃には10人に減るほど厳しい環境だった。そんな中、辻は社会人と学生という二足の草鮭を履き、一週間に1000枚もの作品を書き続ける。
彼女がそこまで打ち込むようになったのは、入学してから周りとの歴然とした差を感じたからだ。周囲の学生は幼い頃から書を続けてきた人、書家になる事や自らの教室を持つ事が目的の人ばかりで、土台が違うと感じた。彼らに追いつくため、辻はとにかく努力を重ねたのだった。
卒業後、師範の免許を取得した彼女は、これからどうするかを漠然と考えたが答えは出ない。そこで新たな目標を見つけるため、美術館やギャラリー巡りを始めた。その最中、大阪・中之島のギャラリーで、ある墨象作品と出会う。一目観て衝撃を受けた彼女は、在廊していた作者にその場で弟子入りを頼み込んだ。話し込んでいくにつれ、作家と辻の家が近いという事がわかり、そこへ通うようになった。
師からは、石膏デッサンや油彩画も教わった。街中を散策しながら店の看板の文字についての解説を聞くなど、辻はこの師の下で多くの事を学んだようだ。その後、杢星展に出すための作品を制作するにあたって、辻は筆や墨を自作し、今まで学んできた全てを詰め込んだ作品を、心の赴くまま自由に書いた。結果は見事入賞。自身の自由な書が、前衛書道の有名な展覧会で認められた事が本当に嬉しかったと語った。
順調に書家としてのキャリアを重ねていた頃、彼女を病魔が襲った。医者からは手術する事を勧められたが、万がー失敗すると体が動かなくなるかもしれない事も同時に告げられた。それはすなわち、愛する書が続けられなくなるだけではなく、日常生活を送る事すらままならなくなるという事だ。しかし辻は、手術を受ける事が全く怖くなかったと話す。担当医を心から信頼し、その身を委ねようと考えていたからだ。自身が望まない未来など想像せず、いつまでも書き続けられる事だけを信じた。
その後、健康を取り戻した辻は、誰かを励まし癒せるような作品を目指し、今も精力的に制作活動を行なっている。担当医に受けた恩を医者本人には返せないとしても、その代わりに、周囲の人々に返していきたいという思いがあるからだ。そのためだろうか、以前の技術に重きを置いた己を主張するものから、曲線を用いた柔らかいものへと、彼女の作品は大きく変化した。書き手から離れた後の作品は観る人が主役になると考えて、鑑賞者に寄り添うような作品をつくっているのだという。また、制作にあたっては、プラス思考でいる事を彼女は心掛けている。何事に対しても、悪いところを見つけるのではなく、良いところを見つけ、常に明るい気持ちでいる事が大切なのだと話してくれた。
現在、辻は自らの書道教室で子供たちに書を教えている。彼女にとって、生徒たちはエネルギーの源。彼らの純粋な心や明るい笑顔は、観る人に寄り添う辻作品にも大きな影響を与えているのだろう。これからも彼女は誰かを励まし癒す作品を生み出し続けていくのだ。(ART MAISON INTERNATIONAL vO.26より アラン・バザール)

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